商船三井ケニア社
2026年10月14日

東アフリカに見る、Standard Gauge Railway(SGR)の発展鉄道網の延伸と既存線の改修で、域内物流はどう変わるのか

緑豊かな自然の中を走行するケニアの標準軌鉄道(SGR)の貨物列車。ディーゼル機関車がコンテナを積載した貨車を牽引している。
写真:ケニアSGRを走行する貨物列車(筆者撮影)

     東アフリカの物流を考えるとき、港から内陸へ貨物を運ぶ鉄道の役割は見逃せない。ケニアとタンザニアでは、既存のメーターゲージ鉄道(MGR:Meter Gauge Railway)に加え、標準軌鉄道(SGR:Standard Gauge Railway)の整備が進む。SGRの線路幅は1,435mmで、日本の新幹線と同じ線路幅を採用している。一方、MGRの線路幅は1,000mmであり、両者では軌間が異なる。ただし、線路幅が同じでも、車両や運行システムが共通しているわけではない。両国のSGRは電化方式や資金調達、接続地域が異なる。延伸が進んだとき、東アフリカ域内の輸送はどう変わるのだろうか。

道の復権を目指すタンザニア

タンザニアでは、既存のMGRを改修しながら、新たなSGRを並行して整備している。MGRは長く使われてきた一方、線路や車両の老朽化などから、設計上の輸送能力を十分に生かせていなかった。世界銀行によると、既存線の貨物量は道路への貨物移行が進む中で低下し、2021/22年度にはMGRで約42万トン、タザラ鉄道で約32万トンだった。そこでMGRの線路・橋梁の改修や運行安全性の改善が進められている。
新設のSGRは電化方式で、2025年7月にダルエスサラーム―ドドマ間の貨物輸送が始まり、2026年2月にはドドマのIhumwa ICD(Inland Container Depot)へ向かうコンテナ列車も運行を開始した。タンザニアの内陸物流拠点は港側だけではない。ダルエスサラームから約80kmのKwalaドライポートは2025年に開設され、SGR貨物サービスと一体で運用されている。Ihumwaではコンテナの受け入れが始まり、モロゴロのICDも整備・運用準備が進む。 ICD(Inland Container Depot)とは、港から離れた内陸部に設けられるコンテナ取扱拠点のことだ。コンテナの受け渡しや保管、通関などを行う物流拠点として機能し、港湾の混雑緩和や内陸輸送の効率化につながることが期待されている。
さらに、ダルエスサラーム港では、SGRを港湾エリアまで引き込む整備が進められており、2027年の供用開始が予定されている。これにより、港から鉄道への貨物の受け渡しがより円滑になり、内陸向け輸送の効率化や港周辺のトラック輸送の負担軽減が期待される。港と鉄道が直接つながることで、コンテナの積み替えにかかる時間や費用の削減にもつながる可能性がある。 今後はムワンザやキゴマ方面への延伸工事が進み、タボラ―キゴマ線はブルンジ方面への接続計画とも関係する。ただし、周辺国まで一貫輸送できる状態になったわけではなく、国境接続、積み替え、通関など実務条件の確認が必要だ。
タンザニアSGRの事業主体・運営主体は国有のタンザニア鉄道公社(TRC)だが、建設会社と資金提供者は区間ごとに異なる。ダルエスサラーム―マクトゥポラ、マクトゥポラ―イサカなどの区間では、トルコのYapı Merkeziが建設を担い、初期区間ではポルトガルのMota-Engil Africaも共同で関与した。一方、タボラ―キゴマ区間の建設契約は中国土木工程集団(CCECC)と中国鉄建(CRCC)の企業連合が担う。資金面では、南アフリカ開発銀行やアフリカ開発銀行グループの支援に加え、区間3・4向けにStandard Charteredが2026年、輸出信用機関などを含む23億3,000万ドル超のシンジケート融資を組成した。トルコ企業が建設する区間でも、資金源がトルコとは限らない。建設・融資・運営を分けて見る必要がある。

タンザニアの標準軌鉄道(SGR)路線図。2024年時点の計画に基づき、開通済み区間、延伸予定路線、完成予定時期を示している。
地図出典:BBC News(タンザニアSGR路線図)
https://www.bbc.com/news/articles/c70z109nnk4o
※2024年時点の計画に基づく路線図です。図中の完成予定年度は、最新の計画を反映していない可能性があります。
ナイバシャから先を目指すケニア

ケニアSGRは、モンバサ港からナイロビを経てナイバシャまで運行している。ナイバシャはナイロビの北西約90~100kmに位置する都市で、道路では通常、車で約1.5~2時間程度の距離にある。ナイバシャにはICDが設けられ、港から運ばれたコンテナを内陸で受け渡す物流拠点として機能している。さらに、ウガンダやルワンダ、コンゴ民主共和国などの内陸市場へ向かう貨物の物流拠点としても期待されている。
初期区間の建設では、中国輸出入銀行の融資とケニア政府の資金が使われ、建設は中国路橋工程(CRBC)が担った。運営は当初、CRBC系のアフリカ・スター鉄道運営会社(AfriStar)が担ったが、ケニア鉄道公社(KRC)が段階的に業務を引き継ぎ、現在の運営主体となっている。 貨物輸送が始まった2018年は約290万トン、2023年は653.3万トン、2024年は653.1万トン、2025年は733.2万トン(暫定)だった。年によって上下はあるものの、開業後全体では増加している。ナイロビとナイバシャにはICDがあり、モンバサ港から鉄道で貨物を運べる。ナイバシャではSGRとMGRを接続する設備も整備されている。
マラバ方面への延伸も進み始めた。2026年7月にはナイバシャ―キスム区間の実工事が始まり、最終的にはウガンダ国境に近いマラバまで鉄道網を延ばす計画だ。施工はCCCC・CRBCが担い、資金は政府予算と海外資金を組み合わせる。延伸が実現すれば、モンバサ港からナイロビ、ナイバシャを経てウガンダ国境方面へと鉄道輸送の選択肢が広がることになる。

ケニアの標準軌鉄道(SGR)路線図。モンバサからナイロビ、ナイバシャまでの開通済み区間と、キスムおよびウガンダ方面への延伸計画を示している。
地図出典:MOLロジスティクス ケニア駐在員レポート
「電車か列車か」ではなく、どうつなぐか

タンザニアSGRは電化され、ケニアSGRはディーゼル機関車で運行される。「電車の方がよい」と言われる背景には、電気機関車のエネルギー効率が高く、沿線で排気ガスを出さずに走れることがある。発電方法によってはCO₂排出も抑えられる。一方、架線や変電設備には大きな初期投資が必要で、環境面の優位性も電源構成に左右される。タンザニアSGRは「電車対列車」ではなく、電化路線を電気機関車が旅客・貨物列車を牽引する方式だ。
鉄道の輸送力は、車両の性能や線路幅だけでは決まらない。特に単線区間では、同じ線路を反対方向の列車が使用するため、列車同士を駅などですれ違わせる必要がある。待避線や信号設備、ダイヤの組み方によって運行可能な本数が制約されるため、貨物需要が増えても、列車の本数を簡単に増やせるとは限らない。運行本数を増やすには、待避設備の整備や信号システムの改善、運行計画の最適化などが重要となる。実際の輸送力を評価する際には、路線ごとの単線・複線の別、待避設備、運行頻度、貨物拠点との接続を確認する必要がある。
また、ケニアのSGR建設をめぐっては、国立公園など自然環境への影響や、中国からの融資と債務負担をめぐる議論が続いてきた。インフラ整備の効果だけを強調するのではなく、環境保全、事業費、利用実績、返済負担を合わせて見る必要がある。一方、鉄道は大量の貨物を道路から移す選択肢となり得る。トラック輸送の一部が鉄道に移れば、港周辺や幹線道路の混雑や事故リスクを抑える可能性はある。ただし、渋滞や事故が実際にどれほど減るかは、鉄道の利用率や道路側の交通量などを見なければ断定できない。

域内輸送の転換点となるか

両国の延伸が実現すれば、港から内陸国境までの輸送ルートが増え、鉄道・道路・港湾をつなぐ貨物の受け渡しも組み替わる可能性がある。たとえば、船会社や荷主が手配した貨物をナイバシャなどの内陸拠点で引き継ぎ、国境の先まで運ぶサービスが整えば、輸送の選択肢は広がるだろう。
ただし、線路ができるだけでは足りない。国境を越える区間の接続、貨物列車の運行枠、積み替え設備、通関や責任分担を実務として整える必要がある。さらに、港から内陸拠点までの鉄道運賃だけでなく、集荷・配送、ターミナルでの荷役、保管、通関にかかる時間や費用も含めて比較しなければ、物流全体の競争力は判断できない。
開通時期は区間で異なる。ケニアのナイバシャ―キスム―マラバ延伸は、政府が以前示した完成目標が2027年6月で、実工事は2026年に始まった。タンザニアのマクトゥポラ―ムワンザはTRCが2028年末の完成・運行開始を目標とし、タボラ―キゴマとウビンザ―ムソンガティは2030年完成予定とされる。いずれも計画上の目標で、実際の開通は工事進捗や国境側の接続に左右される。 SGRは国ごとに異なる形で延びている。今後数年で延伸やICD整備が進み、港と鉄道の接続や貨物取扱体制が改善すれば、東アフリカの物流は大きく変わる可能性がある。一方で、鉄道の運行本数や輸送能力、国境を越える手続きなど、インフラ以外の条件も輸送効率を左右する。鍵は鉄道と港、道路、通関を切れ目なく結ぶことだ。弊社としても、こうした動きを注視していきたい。


References | Notes


免責事項: 本記事で提供されている情報は一般的な参考情報のみを目的としており、現地の規制や運用状況により内容が異なる場合があります。個別の案件については、MOLまたは関係当局にお問い合わせください。

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