先日、エジプト出張のおり、スエズ運河の北端の都市、ポートサイドからカイロまで車で移動したが、運河沿いにイスマイリアまで、比較的新しい片側3~4車線の高速道路が直線に延びていた。この高速道路の完成により、所要時間が半分になったらしい。
この約80Kmの高速道路は、イスマイリア・ポートサイド道路と呼ばれ、スエズ運河横断トンネル等とあわせて、2015~2019年の短期間に建設された。この巨大プロジェクトは、エジプトや海外の建設会社が共同で建設・施工を行ったが、監督・発注を行ったのは、エジプト軍工兵機構(Engineering Authority of the Armed Forces)である。
エジプトの軍関連組織は、許認可、税・関税、政府機関との調整、国家プロジェクトとしての優先順位などで民間企業より大きな制度的優位性を持つため、外貨不足時でも重要な輸入案件を進めやすいとされている。
エジプトでは、こうした軍関連組織がインフラ整備を含む国家プロジェクトにも広く関与している。また、軍関連企業はインフラのみならず、農業、飲食品の製造販売、ガソリンスタンドの運営など、軍需だけでなく幅広い民生分野でも事業を手掛けている。
例えば、軍関連組織であるArmed Forces Land Projects Agency(AFLPA)は、建設・サービス事業に直接関与する権限を持ち、新行政首都を開発するAdministrative Capital for Urban Development(ACUD)の主要株主でもある。このように、軍関連組織の活動は軍事分野に限らず、都市開発やインフラ整備などにも及んでいる。
IMFによると、2025年時点で約80の軍関連企業があり、工業、サービス、建設などさまざまな分野で活動している。民生品では、乳製品や小麦製品、セメント、肥料、自動車、燃料販売などを手掛けており、エジプトの一般消費者に身近な分野にも軍関連企業が存在している。
Yezid Sayighの2019年の著書『Owners of the Republic: An Anatomy of Egypt's Military Economy』でも、エジプトの軍関連企業が建設関連産業を中心に幅広い経済活動を行っていることが指摘されている。IMFの2025年報告書で紹介されているデータによると、軍関連企業の市場シェアは、大理石・花崗岩で36%、セメントで23%、鉄筋で16%となっており、特に建設関連分野で一定の存在感を持っていることがうかがえる。一方、軍関連企業がエジプト経済全体のどの程度を占めているのかについては、正確な規模を把握することは難しい。
エジプトでは、新行政首都をはじめ、大規模な国家プロジェクトも進められている。新行政首都ではすでに政府機関の移転が進み、行政機能を担っている。また、The New Capitalとカイロを結ぶアフリカ初のモノレールも2026年5月に営業運転を開始した。こうした大規模なインフラ・都市開発が各地で進められていることも、現在のエジプトの特徴の一つである。
エジプトに多大な通行料をもたらすスエズ運河は、2023年12月から、紅海周辺での武装組織による船舶攻撃を受けて、通行する船舶の数が激減している。一方で、IMFによると、エジプトでは2025年に経済活動が回復し、実質GDP成長率は4.4%に達した。
エジプトでは、国家による経済活動への関与が大きく、その中でも軍関連企業はインフラや建設だけでなく、製造、食品、エネルギーなど幅広い分野で事業を展開している。こうした軍関連組織の経済活動への関与は、エジプトの産業・経済構造を理解する上で特徴的な要素の一つと言える。
References | Notes
- International Monetary Fund (IMF), Arab Republic of Egypt: 2025 Article IV Consultation, Fourth Review Under the Extended Arrangement Under the Extended Fund Facility, Requests for Waivers of Nonobservance and Modification of Performance Criteria and Request for an Arrangement Under the Resilience and Sustainability Facility—Press Release; Staff Report; and Statement by the Executive Director for Egypt, IMF eLIBRARY, 2025. https://www.elibrary.imf.org/view/journals/002/2025/186/article-A001-en.xml