商船三井ケニア社
2026年6月3日

電動化を超えて
― BasiGoが切り拓くアフリカ公共交通の未来 ―

     2026年5月15日、ナイロビ市内に展開する東アフリカ最大のEVバス企業BasiGoのサービスセンター兼充電施設を訪問した。広い敷地に並ぶ電動バスと充電設備、そして夜間充電を前提に設計されたオペレーションを目の当たりにしたとき、ここで起きているのは単なる「バス車両の電動化」ではなく、「公共交通の構造そのものの変革」であると実感した。その背景には、ケニア特有の電力事情とバス市場の構造がある。ケニアで走るバスの中心は引き続きディーゼルバスタイプの「マタツ(Matatu)」( 2025年1月8日のブログ「ナイロビの鼓動:カラフルなマタツの世界」ご参照 ) だが、ケニアでは新しいトレンドが生まれているので紹介したい。

ケニア・ナイロビにあるBasiGoのサービス・充電施設に並ぶ電動バス。夜間充電やメンテナンス、運行サポートが行われる拠点の様子。
分散されたバス市場という前提

ケニアの公共交通の主役はMatatuと呼ばれる民間バスである。ナイロビだけで約2万台が走り、SACCO(協同組合)単位で運行される極めて分散された市場だ。バスは個人事業主が保有し、金融、運行、整備がバラバラに存在する。この構造は柔軟である一方、非効率でもある。さらに近年はディーゼル燃料価格の高騰により、収益構造自体が揺らぎ始めている。実際、燃料補助金の縮小により燃料価格が大きく上昇し、ディーゼルバスの収益性は急激に悪化している。つまり、この市場では「燃料と資金」の両面から構造転換が求められていた。

なぜケニアでEVバスは成立するのか

興味深いのは、ケニアがEVに非常に適した条件を持っているという点だ。その理由は電力だ。ケニアの電力は約90%が再生可能エネルギーで構成されており、約45%が地熱発電、約25%が水力発電、約15%が風力発電で、夜間には余剰電力が発生している。実際、電動バスの多くは夜間に充電される設計となっており、これまで使われていなかった電力の有効活用が可能となる。夜間の電力は昼間の電力より格安に設定されているので、現在のようなディーゼル価格の環境下(5月15日時点で1リットル当たりKSh242.92 = US$1.88 = 298円)、コスト競争力が出る。そして、電力の90%が再生可能エネルギーであるため究極的な脱炭素効果が得られる。電動バスは1台で年間50トン以上のCO2削減効果を持ち、都市の大気汚染や騒音の低減にも寄与する。つまりケニアでは、「再エネ電力+高燃料コスト」という組み合わせにより、EVは単なる環境対策ではなく、「経済合理性を持った選択肢」になっている。

BasiGoの革新は「車両」ではなく「仕組み」

BasiGoの本質は、1回の充電で約250km走れるという電動バスそのものではない。同社の最大の特徴は、車両・電力・インフラ・金融を一体化したEaaS(Electric Mobility as a Service)モデルにある。従来、バスオーナーは数万ドル規模の車両投資を必要とし、そこに燃料コスト、整備コスト、資金調達リスクが加わっていた。BasiGoはこれを、走行距離ベースの従量課金型リース(Pay-As-You-Drive)に置き換えた。これによりオーナーは初期投資を大幅に抑えつつ、

  • 車両
  • 充電
  • メンテナンス
を一括で利用できる。
さらに車両の稼働データや運行状況はデジタルで管理され、収益性の可視化も可能となる。これは単なるリースではなく、「分散されたバス事業者を統合するプラットフォーム」に近い。

オペレーション設計の完成度

今回視察した充電・サービス施設で印象的だったのは、そのオペレーションの完成度だ。バスは日中運行した後、夜間に施設へ戻り、

  • 充電
  • 点検
  • 清掃
を一体で実施する。ドライバーの運行フロー自体は従来と変わらないため、新たな負担は発生しない。また、ルート上に配置された充電拠点により、インフラの制約も最小化されている。この設計により、電動バスの稼働率は90%以上を維持している。

BasiGoの整備施設内に並ぶ「Made in Kenya」表示の電動バス。ケニア国内での組立とEV輸送産業の発展を象徴している。
「Made in Kenya」が意味するもの

今回の訪問で特に印象に残ったのは、車両の後部に貼られた「Made in Kenya」というステッカーだった。BasiGoは各国の規制や税制に応じて事業モデルを最適化しており、ケニアではナイロビ郊外(約40km)にあるKVA工場でバスのCKD組立を行っている。これは完成車輸入に比べて税制上の優遇を享受するための戦略である。しかし、その意味は経済合理性にとどまらない。「Made in Kenya」という表示には、輸入された部品で組み立てるだけでなく、将来的にローカルサプライチェーンを育てていく意思が込められているように感じられた。実際、現地組立の最大の課題はサプライチェーンの未成熟であり、多くの部品は依然として海外からの輸入に依存している。それでもあえてローカル組立に踏み込むことで、「アフリカでつくる」という産業基盤の構築に挑戦している。この点は、単なるモビリティ事業というよりも、産業政策的な意味合いを強く持つ部分だ。

小型車両への展開が示すリアル

もう一つ興味深いのは、BasiGoが大型バスだけでなく、トヨタ・ハイエース型の小型バンにも展開を始めている点である。すでに約20台規模が運行されており、これは単なるラインナップ追加ではない。ケニアの都市交通の実態を見ると、需要は必ずしも大型バスだけではなく、

  • 短距離
  • 高頻度
  • 柔軟なルート
といった輸送ニーズが非常に強い。従来のMatatuもまさにそのニーズを満たしてきた存在であり、BasiGoの小型車両はそれをEV化する動きといえる。
つまり同社は、「バスの電動化」ではなく、「都市交通全体の電動化」を視野に入れている。この小型車両の展開は、ラストマイルや支線交通を取り込むうえで極めて重要なピースになる可能性がある。

需要はすでに存在している

現在、BasiGoのバスはケニアで約136台にとどまるが、ナイロビの市場規模は約2万台であり、普及率はまだ1%未満だ。しかし、すでに六千台規模の予約が入っており、1200以上の顧客がデポジットを支払って待機している。つまりボトルネックは需要ではなく供給、さらに言えば資金調達である。EVバス事業は資本集約型であり、拡大には巨額の資金とインフラ投資が必要となる。ここが今後の成長を左右する最大のポイントとなる。

ナイロビのBasiGo施設で充電設備に接続された電動シャトルバス。ケニアにおける電動モビリティインフラの拡大を示している。
「バスの電動化」を超えた意味

今回の訪問を通じて感じたのは、BasiGoが挑戦しているのは単なるEVバス事業ではないということだ。分散され非効率だった公共交通を、

  • データ
  • 金融
  • インフラ
で統合し、「サービスとしてのモビリティ」に再構築している。そしてそれが、環境問題、都市インフラ、エネルギー問題まで同時に解決し得る構造になっているのだから本当に素晴らしい。

ナイロビの街を静かに走る電動バスは、単なる新しい乗り物ではない。
それは、アフリカの都市のあり方そのものを変える「インフラ革命」の始まりである。
今後、このモデルが東アフリカ、さらにはアフリカ全体にどのように広がっていくのか。
現場でその片鱗を見た今、強い期待とともにその行方を追い続けたい。


References | Notes


免責事項: 本記事で提供されている情報は一般的な参考情報のみを目的としており、現地の規制や運用状況により内容が異なる場合があります。個別の案件については、MOLまたは関係当局にお問い合わせください。

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