ケニア・ナイロビで仕事をしていると、日本ではあまり経験しない独特のルールに直面します。その最たるものが、「とにかくWhatsApp(ワッツアップ)で連絡する」という文化です。
そもそもWhatsAppとは、世界的に普及している無料のメッセージアプリで、日本でいう「LINE(ライン)」のようなものです。欧州や中東、アフリカなどでは圧倒的なシェアを誇る世界標準のツールで、登録にはスマートフォンの電話番号が必要ですが、日本の番号でもアカウントを作ることができます。
このWhatsApp、ケニアでは単なるプライベートの連絡手段ではなく、ビジネスにおいても不可欠なインフラとなっています。
もちろん、見積書や契約関係、正式な書類のやり取りなどは今でもメールが基本です。そこは崩せません。でも、日々の細かい相談や、現場でのちょっとした確認、そして何より「すぐに返事がほしい」という場面では、このチャットアプリの存在感が圧倒的です。むしろ、メールだけで全部進めようとすると、肝心なところで返信が来なくなったり、話が進まなくなったりすることすらあります。
なぜ、ここまでWhatsAppなのか?
なぜケニアでは、仕事でもここまでチャットが優先されるのでしょうか。背景には、この国ならではの事情があります。
ケニアはモバイルマネー(M-PESA)がすごく普及していますが、ネットの使い方も完全にスマホ中心です。ここで大きいのは、多くの現地スタッフにとって、スマホは常に持っている自分専用の道具である一方、PCは必ずしも一人一台、いつでも使える環境にあるわけではないという実情です。
オフィスを一歩出ればPCに触れる機会が限られる人も多く、必然的に「ネット=スマホのアプリ」になります。移動中でも現場でも、ポケットから出してすぐ返信できるWhatsAppは、彼らにとって一番身近で確実なツールとなっています。わざわざPCを開いてメールを確認するというのは、彼らにとっては物理的にも心理的にも、少しハードルの高い作業になってしまっているかもしれません。
また、通信環境の改善も大きいです。今は都市部だけでなく、国境付近や地方でもネットが繋がるエリアが増えています。一度ネットさえ繋がれば、相手がタンザニアにいてもウガンダにいても、国境を越えてすぐ連絡が取れます。この「場所を問わずにすぐ繋がる」感覚が、広域をカバーする物流の仕事では手放せないものになっています。
現場を動かすスピード感
一分一秒を争う現場では、このスピード感が欠かせません。
広い輸送ルートの上では、天候や交通状況、ちょっとしたトラブルなど、予期せぬ変化が毎日起こります。そんな時、まずは手元のスマホで状況を聞き、すぐ次のアクションを決めていく。PCを持っていない現場の担当者やドライバーとも、写真やメッセージで直感的にやり取りできる機動力は、東アフリカでビジネスをする上でかなり強力な武器になります。
サファリガイドやマサイの人々にも広がるデジタル化
この変化は、ビジネスの場だけではありません。
例えばサファリの現場。場所にもよるかもしれませんが、以前は無線だけで「あそこにライオンがいるぞ」と連絡し合っていたガイドさんたちの間でも、最近はWhatsAppグループで位置情報を共有して連携するケースが増えています。
さらに、伝統的な暮らしをしているマサイの人たちも、実はスマートフォンを使いこなしている姿をよく目にします。草原で家畜を追っている彼らが、仲間と連絡を取り合ったりしており、彼らもまた、PCは持っていなくてもスマホは自在に使いこなす世代です。「アフリカはインフラが遅れている」というイメージを持って来ると、この「想像以上のスマホ社会」ぶりに、良い意味で驚かされます。
便利だからこそ、気をつけたいこと
ただ、このチャット文化にどっぷり浸かっていると、仕事としては少し困ることも出てきます。
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「あの話、どこだっけ?」問題:
1日に何百通もメッセージが流れるので、後から「あの時の合意事項」を探すのが本当に大変です。メールのように件名で整理できないので、過去のログを延々と遡ることになります。
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やり取りが「個人」に残ってしまう:
チャットは個人同士のやり取りになりがちなので、誰かがスマホを壊したり失くしたりすると、これまでの経緯が分からなくなる恐れがあります。組織として情報を残すには、少し工夫が必要です。
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グループが増えすぎる:
案件ごとに次々とグループができるので、情報がバラバラになって管理が煩雑になりがちです。
だからこその「二度手間」が大事
こうしたチャットの危うさを分かった上で、僕たちが大切にしているのが、「大事なところでは、あえてメールを入れる」という一手間です。
チャットでのやり取りは、物事を進めるためのエンジンになります。でも、後になって「言った・言わない」のトラブルになるのを防いだり、公式な記録として残したりするには、やっぱりメールという形が一番安心です。
「さっきWhatsAppで話した通り、このスケジュールで進めるね。念のため、メールでも送っておくよ」
この一通があるだけで、数ヶ月後の大きなトラブルを防げることがあります。チャットの機動力で現場を引っ張りつつ、メールできちんとエビデンスを残す。この「二刀流」の使い分けが、当地で仕事を上手く回すコツではないかと思っています。
最後に
ケニアで働くということは、この「チャットのスピード感」と「メールの確実性」の板挟みの中で、毎日ちょうどいい落とし所を探し続けることかもしれません。
現地の方に合わせてチャットでプロジェクトを動かしつつ、最後はメールで石橋を叩いて渡る。このデジタルな熱気と、地道な確認作業の積み重ねで、今日も一歩ずつ前に進んでいます。