商船三井ケニア社
2026年1月28日

【ケニア最前線】「見えなかった市場」を切り拓く――バンドー化学がケニアで自社在庫化に踏み切った理由

アフリカ経済の要衝、ケニア。 ナイロビの幹線道路を見渡せば、行き交う車の約8割が日本から輸入された中古車だ。トヨタ、ニッサン、ホンダ——。日本の風景と見紛うほどの「日本車大国」であるこの地で、その足元を支え続けている日本企業がある。
2026年に創業120年を迎えるベルトメーカーの雄、バンドー化学株式会社だ。
同社は今、アフリカビジネスの定石とも言える「中東・ドバイ経由」の商流から一歩踏み出し、ケニア現地での「支店登録」と「自社在庫化」という大きな勝負に出ている。 なぜ彼らは、リスクを背負ってまで現地化を急いだのか。その背景には、市場への「解像度」を上げたいという、メーカーとしての切実な思いがあった。

「売れているのに、見えない」ジレンマ

多くのグローバル企業にとって、アフリカ市場へのアプローチは「ドバイ経由」が一般的だ。ドバイのハブ機能を使い、現地のディストリビューター(販売代理店)に販売を任せる。物流効率も良く、カントリーリスクも回避できる賢い選択肢だ。 バンドー化学もかつては、このモデルを採用していた。しかし、売上が伸びるにつれ、ある課題が浮き彫りになる。
「市場の解像度が低い、というもどかしさがありました」
バンドー化学の担当者は、当時の状況をそう振り返る。

バンドー化学 担当者様のコメント:
「ドバイの代理店に商品を卸した時点で、我々の手から商品は離れてしまいます。その後、ケニアの誰が、どんな目的で、どのベルトを買ってくれているのか。いわば『ブラックボックス』の状態でした。 売れてはいるけれど、現地のリアルな温度感が分からない。これでは、今後の市場変化に対応できないという危機感がありました」

「Team Toyota」で確信した、本物への渇望

その危機感が「確信」へと変わる出来事があった。 ナイロビで開催された自動車アフターパーツの展示会「Auto-expo」だ。バンドー化学は、同じく日本の自動車部品メーカーであるジェイテクト(JTEKT)社、デンソー(Denso)社と共に、「Team Toyota」として共同出展を行った。

ブースには連日、多くの現地バイヤーや整備士が詰めかけ、「日本車の純正部品と同じクオリティのものが欲しい」「偽物にはもううんざりだ」という切実な声が寄せられた。市場は間違いなく、本物の「Made in Japan」を求めていたのだ。

人口ボーナスを掴むための「支店化」決断

これには、法人税やVAT(付加価値税)といった税務対応などの負担が伴う。それでも彼らを突き動かしたのは、ケニアが持つ圧倒的なポテンシャル——「人口ボーナス」への期待だ。

バンドー化学 担当者様のコメント:
「ケニア、そして東アフリカはこれから中間層が爆発的に増え、モータリゼーションが加速します。その波に乗るためには、遠隔操作ではなく、現地に在庫を持ち、必要な時に即座に供給できる体制(Just in Time)が不可欠だと判断しました」

「サポート役」から「プレイヤー」へ。現地責任者の覚醒

支店化と在庫保有は、人の意識も劇的に変えた。 これまでケニアの現地責任者の役割は、あくまで代理店の販売サポートやマーケティング活動に留まっていた。商品自体はドバイから代理店へ直送されるため、彼自身が在庫をコントロールすることはできなかったのだ。
しかし、自社在庫を持ったことで状況は一変する。 「自分の手元に売るべき商品がある」。その事実は、現地責任者のマインドセットを変え、パフォーマンスを大きく向上させた。

バンドー化学 担当者様のコメント:
「これまでは『代理店にお願いする』立場でしたが、自社在庫を持ったことで、彼自身が主体的に販売戦略を立てられるようになりました。武器(在庫)を持ったことで、『売るための責任と自信』が生まれたのだと思います」

ナイロビ市内の路上整備工場で、現地整備士とともに車両を確認するバンドー化学のスタッフ。
物流倉庫での「ひと手間」が、ブランドを作る

現地化にあたり、物流パートナーとして選ばれたのが商船三井ロジスティクス(MOL Logistics)だ。 日本貿易振興機構(JETRO)の紹介を通じてパートナーとなったMOLの倉庫では、単に段ボールを保管しているだけではない。
出荷の直前、バンドー化学専用ケースへの収納やラベリングといった「流通加工」が行われている。 バルクで入荷した製品を、現地のオーダーに合わせて一つひとつ丁寧に仕上げてから送り出す。このきめ細やかなサポートが、ブランドの信頼を支えている。

バンドー化学 担当者様のコメント:
「在庫管理のプロであるMOLさんの倉庫を拠点とすることで、商品の安全が担保されるだけでなく、こうした加工作業まで対応してもらえるのは大きいです。 物流面を安心してお任せできるので、我々は営業やマーケティングといった『攻め』の部分にリソースを集中できるようになりました。市場の解像度は、以前とは比べ物にならないほど上がっています」

ケニア現地在庫として保管・出荷準備が整えられた、バンドー製リブエースベルトの専用パッケージ。
ケニアを起点に、東アフリカ全土へ

市場の霧が晴れ、視界は良好だ。 バンドー化学の視線はすでに、ケニアの国境を越えた先にあるタンザニアやウガンダといった東アフリカ全土へと向けられている。ナイロビの在庫拠点をハブとして機能させ、周辺国への展開を加速させる構想だ。
「見えない市場」を恐れず、一歩踏み込んで「解像度」を高める。 バンドー化学の挑戦は、アフリカビジネスにおける一つの成功モデルとして、これからも多くの日本企業の道標となるだろう。

ナイロビの物流倉庫内で、自動車部品の棚を背景に並ぶバンドー化学および商船三井ロジスティクスのメンバー。
ケニアの自動車部品倉庫内で、現地スタッフと商船三井ロジスティクス担当者が在庫運用の様子を示している。
編集後記

本記事の作成にあたり、バンドー化学様の熱意あるお話を伺いました。 商船三井ロジスティクス・ナイロビ支店では、同社のように「現地に在庫を持ちたい」という企業の皆様へ、安心・安全な倉庫機能を提供しています。 保管だけでなく、今回ご紹介したような「流通加工(詰め替え・ラベリング等)」にも対応し、お客様のビジネスをロジスティクスの側面からサポートしております。アフリカ市場の解像度を高めたい企業の皆様、ぜひ一度ご相談ください。


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